コラム
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 とりあえずわたしは数学がダメである。今に至っては苦手であるとかそのようなハートウォーミングなレベルではない。掛け算割り算も1桁ならなんとかなるが、2桁以上は、PCの「計算機」で行う。それも3回計算して、3回とも違った数が出てきたりする。
 そんなわたしが、ちょっと昔だが、やや凝ったのが「フラクタル幾何学」だ。みただけで実際頭が痛くなる数式が少なく、下のように「みため」がおもしろかったからだろう。

 「フラクタル」とは、1970年代なかごろに、フランスの数学者 マンデルブロが導入した幾何学の概念である。フラクタル幾何学によって、たとえば不規則な自然のかたち、貝殻とか海藻とか草花のかたちでさえも、数式で描くことができると考えられるようになった。ただし、おもしろいのは、自然のかたちが不規則で複雑だからといっても、それをあらわす数式が複雑なのではなく、それじたいはごくごく簡単で単純なものでも、それをたくさん繰り返すことによって、予想もしなかった複雑なかたちがあらわれるという点だ。

 すなわち、たとえばなんらかの種をうえると、どこにあるのかよくわからないけれど、それには、わたしレベルのたぶん1桁の掛け算割り算ていどならできる計算機が入っていて、日々きまった計算をひたすらくりかえしていって、それぞれの個性的なかたちになっていくのだ。おそらく。

マンデルブロ集合アプレット
http://brain.cc.kogakuin.ac.jp/~kanamaru/Chaos/Mandelbrot/

 フラクタルの代名詞的な「マンデルブロ集合」も、単純な数式ではあるが、それをコンピュータの能力いっぱい繰り返してできる図形である。曼荼羅にみえるときもあるし、アンモナイトや、シダや雪の結晶にみえるときもある。

 フラクタル幾何学というとかならずといってよいほどまずみるのがこのマンデルブロ集合であり、ただ、境界をみやすくするためにたいてい極彩色に塗ってしまうので、なんというか、ジミ ヘンドリックスが後ろでギター弾いてそうな印象になってしまい、事実、フラクタルをとりいれたフラクタルアートという分野は実際ちょっとまえのサイケデリックアートみたいなものが大半なのだが、もちろん、アートのほかに、音楽、造形、建築といった分野にも応用されている。

黒川紀章
http://www.kisho.co.jp/j_index.php

伊東豊雄
http://www.c-channel.com/c00088/

 都会にいくとなんだかへんてこな建物があるな、などと思っていると、実はフラクタルを応用したデザイン設計であったりする。従来の直線やせいぜい円などのユークリッド幾何学的な建築から、より自由なフラクタル幾何学的建築なのである。単にへんてこではなかったのだ。

前田紀貞の建築ブログ
http://norisada.at.webry.info/200604/article_1.html

 と思えば、フラクタルなコンセプトをもった「フラクタルなタイル」などもある。フラクタルアートや建築からくらべると、ちょっと身近で、普通に、「こんなタイルいいねー」という感じだ。





 たとえば、上は、フラクタル幾何学の基本的な存在である、「コッホの島もしくは雪片」、「フラクタル樹形」、「ペアノ曲線」、「ポアンカレの鎖」であるが、それぞれに付けられた名称とともに、これらも、なんとなくかわいらしくて好印象である。

フラクタルの例
http://homepage3.nifty.com/SGL/FRACTAL/fractal_sample.htm

Vector フラクタル描画ツール
http://www.vector.co.jp/vpack/filearea/win/..

 画像に示したのは、無限にあるとされるパターンの一部で、上のページでは、実際に数値を変えることでどのようなパターンがあらわれるかを体験できる。また、同様のフラクタル図形を描画できるソフトウェアもさまざま出ているので、興味のある方は。

 さまざまなタイプのフラクタル図形というものをみていると、ときどき、ファブリックのデザインパターンのサンプルをみているような気分になることがある。事実、そのようなデザインパターンのいくつかはフラクタルそのものだからだろう。
 ということは、当然、手ぬぐいの柄やスカートの生地なんかにもフラクタルは応用できるし、わたしが知らないだけで、すでにたくさんあるのかもしれない。
 とくに和様の柄には、西洋的な幾何学的なかたちよりも、フラクタルが得意な、いっけん不規則な線、浪の形や雲の形、しぜんのかたちのくりかえしを好んで多くとりいれているようにみえる。

 まあべつに、フラクタルやらコンピュータやらを使わなくても良いデザインパターンくらいつくれるし、これまでもつくられてきたじゃないの、というむきもあるだろう。しかし、マンデルブロが言うように、フラクタル幾何学は、「非常にいかめしい数学のなかには、今日まで誰もそのようなものがあるとは思ってもみなかった造形の美を隠し持つものがあるということを明らかにする」ことに美点がある。
 それを明らかにするのは、単純な数式とその繰り返しだけである。計算をせっせと繰り返すのはありがたいことにわれわれではない。目の前にあるどこにでもあるコンピュータだ。フラクタルしてみたら、なんだかしらないけど、こんなにすごい柄ができちゃったよ、とか、こんなにすごいかたちのお皿ができちゃったよ、とか、あるかもしれません。(櫛谷)