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| 夏のおわりに、大阪道頓堀界隈をおとずれた。毎年、旅行をともにしているさいたまの友人母娘と、お互い夫はぬきの、気楽な構成で。 毎度「旅はおいしく」がモットーの一味。とはいえ、たった2泊3日で食べられる量などたかが知れたもの。胃袋にスペアがないのをなげきつつ、何を食べるか厳選して旅立った。 自由軒 http://www.jiyuken.co.jp/ なんばグランド花月でWヤングや桂文珍の芸に笑いころげたあと、歩いて数分の「自由軒」の名物カレーをめざした。織田作之助の夫婦善哉に登場することで有名な老舗だが、といって気取ったところなどない街の洋食屋で、名物カレーに負けない名物女将が帳場からにこやかに、「お暑いところようこそお越しくださいました」と迎えてくれた。 「自由軒のラ、ラ、ライスカレーはご飯にあんじょうま、ま、ま、まむしてあるよって、うまい」と柳吉の言った言葉どおり、名物カレーは刺激的なカレールーが、すでにご飯と合わさってくる。この辛さを、生卵でやわらげながら食べるのだ。なんとも風変わりで強い印象を残す名物カレー。明治の創業以来レシピには手を加えていないというが、一向に古さは感じられない。お昼時をとうに過ぎていたのに、客足が絶えることはなかった。 美々卯 http://www.mimiu.co.jp/mimiu/top.html 谷崎潤一郎も好んだという美々卯のうどんすきは、しっかりした太いうどんと、アナゴ、松茸、海老、湯葉、鶏肉等々と、種々の野菜をかおり高い琥珀色のだし汁で煮ていただく。洗面器のような風変わりな鍋の形にはわけがあり、ふちに沿わせるようにうどんをたぐれば、ぴしゃんと鍋に取り落とすような粗相もまぬがれる。と「美味しんぼ」43巻に載っている。本店で迎えてくれる品のいいご老人は、知られざる蕎麦の歴史、蒸し蕎麦を漫画の中で山岡たちに供する2代目当主薩摩夘一さんご本人。われらのやや場違いな子ども連中に、 「元気のいい子どもさん方には冷たいのみものがいいでしょう」 とお茶の後にあらためて冷茶を運んでくれる細やかなこころくばりは、相談役にしりぞかれた今だから生まれた余裕などではない。まだお若い漫画の中でも、今とかわらぬやわらかな物腰がうかがえる。そばの歴史をひもとく著書を著された、学究肌の人なのだ。美味しんぼを読んでから出かければ楽しさも増すこと請け合い。おためしあれ。 夫婦善哉 http://www.sato-restaurant-systems.co.jp/zen/burari/map.html 前後して、前出の夫婦善哉。この本の題名にもなったぜんざい屋さんが法善寺横丁にある。ところが、上から下まで青々と苔むした水掛不動に手を合わせ、まわりをぐるりと見渡せども見つからない。隣の路地とをつなぐ細い脇道奥で、なにやらおじさんたちが数人、椅子に腰かけて雑談をかわしているのが少しこわい。そそくさと立ち去って、隣の路地を見渡しても、やっぱり目当ての店はない。そしてまた、さっきのおじさんたちだ。目が合わないようにしていたはずなのに、「すみません」などと声をかけてしまったのは、きっと暑さのせいだろう。夫婦ぜんざいの所在をたずねると、なんとただいま工事中。がっかり。そんなわたしに、 「お地蔵さんには参られたか」 とおじさんA。もちろん参りましたよ、ええ、といい終わらないうちに 「まいっとらん」 とおじさんB。ひょっとして怒られてる?水もちゃんとかけたのに、もう。なんてココロの声は聞こえやしまいが、 「あっちはお不動さん、お地蔵さんはこっち」 ほんとだ。おじさんたちの脇に、お地蔵さん。うかつでした・・・。 子どもたちの安全を守るお地蔵さんの、その日は地蔵講とかで、手を合わせた子どもたちにはお菓子をいただいた。うかつついでに、お地蔵さんのすぐ脇に、清冷な地下水がこんこんと湧き出ているのにも、そのときやっと気がついた。硬く冷たい水に手をひたしていると、 「きいんきいんと人通りの少ない時分にはいい音がするんや」 とおじさんB。まさか、水琴窟がこの下に?真顔で話しを聞いていると、おじさんAが苦笑まじりにさえぎった。 「むりむり、あんなもん500万円もするんやで」 通りすがりの観光客に対するこの垣の低さは大阪ゆえか。ぜんざいにはありつけなかったけど、それはそれでよかった。まさか大阪まできて、パックンチョやポテチをおみやげに持ち帰ることになろうとは、思いもしなかったけれど。 ワナカ大入 http://r.gnavi.co.jp/k348700/ たこ焼きは「ワナカ」。よしもとグランド花月の観覧前に、人気のタコセンをたべた。楕円のえびセンにたこ焼き2つをはさんだもので、和製ファーストフードの様相だ。夕方にもう一度店の前を通りかかると、いかにも会社帰りらしいスーツ姿の男性が、大きな船形の皿に盛られたたこ焼きをかかえてほおばっている姿がやけに目についた。たこ焼きは生活の一部。そんな雰囲気がただよっていた。 美津の http://www.mizuno-osaka.com/ お好み焼きは「美津の」。知名度の高いぼてぢゅうや千房よりおいしいという情報を入手し、一番人気の山いもを注文した。お好み焼きは火加減、焼き加減がむづかしいと聞く。美津のでは、店員があざやかな手つきで焼き上げてくれるのを、客はただ待って入ればいい。つなぎに小麦粉を一切使わない山いもは、材料を全て投入した後、しばらく蓋をして蒸し焼きにする。その蓋の下から、具ごとふんわりと持ち上がったお好み焼きが姿をあらわす瞬間は、大人といえど「おおー」といわずにいられないこと必定。ソース、マヨネーズ、青海苔、花かつをトッピングしてもらってさあ完成。山いもはおなかにたまらず、いくらでもすいすい食べられそうで、残念なほどあっという間に平らげてしまった。 道頓堀はオープンエア。たこ焼きだけじゃない。ラーメン屋だって外からいきなり畳にあがるから、靴がずらっとならんでいる場所は、はたして歩道なのか店なのか判別しかねる。巨大ネオンが掘を照らし、夜が更けても終わらない縁日のように、老いもわかきも観光客も呑みこんで、街全体が膨らんでいた。よその都市にはないあかるい活気。ソースの匂いが鼻腔をくすぐるおもしろい街だった。(大澤) |