073.甘味に緑茶

 072.平日の美術館

 071.衣替え一考

 070.魅惑のカレイドスコープ

 069.チェコアニメーションの巨匠たち

 068.浴衣で盆踊り

 067.あなたの布団はどれですか

 066.レシピサイトレポート

 065.蚊遣りのけむり

 064.ぶらり熱帯、食虫植物

 063.オンラインデパート巡礼

 062.うちわの風

 061.タオルも手ぬぐいも

 060.真夏の夜の映画

 059.朝顔いまむかし

 058.笹の葉さらさら

 057.ディックブルーナ

 056.和傘と洋傘

 055.パジャマの好み

 054.歯は磨いたか

 053.座布団まめ知識

 052.比較的革を選ぶ理由

 051.歩くための靴

 050.カーテンも衣替え

 049.石ころころり

 048.電子本と未来の生活

 047.葉っぱの香をお取り寄せ

 046.今日は自転車

 045.Vintage Apple

 044.手塩にかける曲げわっぱ

 043.デスクトップのコモノ

 042.小春日和の雑貨

 041.鉄瓶えらび

 040.現代はりばこ事情



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 夏の夕暮れ、ベランダで涼んでいると、かそけき虫の音を破って「ツッキ(月)は〜出った出ぇた」とにぎやかな歌と太鼓の囃子。はて今日は盆踊りかと読みかけの本に戻ったものの、大音量の音頭は次からつぎと果てなくつづき、ついに読書をあきらめた。「そこの公園でやってるから行っといで」と夕涼みのおばさんに促され、下駄を鳴らしてのぞきに行けば、赤提灯の列が闇にくっきり鮮やかだ。高台の敷地ど真ん中に立派な櫓が据えられて、港の夜景をとおく背に、太鼓叩きと3人ばかりの踊り手が、きれいな振りを見せる下では、浴衣まじりの老若男女が輪をつくる。ざっと50人ばかり、屋台ひとつ見あたらぬ、ビールとジュースを市価で売っているだけの、町内会のお祭りだ。

 150万もの人を集める阿波など大きな祭りから、町の公園やお寺に集う地域のものまで、全国で催される盆踊り。中世の庶民派仏教の代表である念仏信仰と、囃子を伴う歌と舞の芸能である風流とが起源といわれ、聖とよばれる下級宗教家から、庶民へと広まった。各地の伝統行事と結びついた伝統系の盆踊りは歌や太鼓、笛三味線の生演奏だが、戦後に増えた民謡踊りはレコードを使って派手にやる。

 時代を下るごとに娯楽の要素が大きくなって、室町から明治時代まで度々の禁止令にさらされながら、現代まで受け継がれ、日本の夏を盛りあげる。 盂蘭盆会という仏教行事を原点とするお盆の行事として、旧暦の7月13日ころが主であったが、現代ではまちまちだ。25万の人を呼ぶ郡上八幡では「縁日踊り」と称して7月から9月まで計30日近くもつづき、8月の13日〜16日は徹夜踊りがあるという。

盆踊りの世界   
http://www.bonodori.net/

 紬で名高い郡上八幡は、踊り浴衣も洒落ていて、呉服屋さんで借りることもできるとか。足拍子につかう下駄も欠かせず、手拭いで顔をかくせば、なぜだか余計きれいに見える。さいきんは浴衣人気で、公園の盆踊りでもいろんな柄が鮮やかだ。子どもたちも張り切って、髪もきれいに結ってくる。ピンクやブルーのぺらぺらしたのもいいけれど、しっかり染め抜いた反物仕立ての愛らしさには適わない。長い袂と三尺帯をゆらして踊るうしろ姿もまたかわいい。

 闇を背にした盆踊りでは、柄のくっきりした踊り浴衣がひときわ映える。そもそも色柄いぜんに着付けと立居振舞で姿のよさが決まるので、年増も娘も関わらず、踊りなれたひとほど際立って美しい。衣紋の抜き方、帯の締めかた、歩きぶりや袂を扱う手先のきれいさが歴然とものを言う。

お祭りのきもの  
http://www.wafuku.com/


 踊りもしかり、見よう見真似のお嬢さんより、曲が変われど息ひとつ乱さずするりと踊るジャージ姿のおばさんに軍配あがる、実力勝負の盆踊り。それにしても、東京音頭から炭鉱節、私の好きな河内おとこ節に到るまで、難なくこなす中年女性が多いのは、戦後の民謡ブームの産物か。お勝手からつい出てきたような前掛け姿の奥さんたちが、うっすら上気して晴々と輪から出てくる。

 とまれ夏の夜、みんなで踊る愉しさは、老いも若きも上手下手もない。来年はひとつ踊りを覚えて、浴衣で参加したいもの。(本間さとみ)