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夏の夕暮れ、ベランダで涼んでいると、かそけき虫の音を破って「ツッキ(月)は〜出った出ぇた」とにぎやかな歌と太鼓の囃子。はて今日は盆踊りかと読みかけの本に戻ったものの、大音量の音頭は次からつぎと果てなくつづき、ついに読書をあきらめた。「そこの公園でやってるから行っといで」と夕涼みのおばさんに促され、下駄を鳴らしてのぞきに行けば、赤提灯の列が闇にくっきり鮮やかだ。高台の敷地ど真ん中に立派な櫓が据えられて、港の夜景をとおく背に、太鼓叩きと3人ばかりの踊り手が、きれいな振りを見せる下では、浴衣まじりの老若男女が輪をつくる。ざっと50人ばかり、屋台ひとつ見あたらぬ、ビールとジュースを市価で売っているだけの、町内会のお祭りだ。 150万もの人を集める阿波など大きな祭りから、町の公園やお寺に集う地域のものまで、全国で催される盆踊り。中世の庶民派仏教の代表である念仏信仰と、囃子を伴う歌と舞の芸能である風流とが起源といわれ、聖とよばれる下級宗教家から、庶民へと広まった。各地の伝統行事と結びついた伝統系の盆踊りは歌や太鼓、笛三味線の生演奏だが、戦後に増えた民謡踊りはレコードを使って派手にやる。 時代を下るごとに娯楽の要素が大きくなって、室町から明治時代まで度々の禁止令にさらされながら、現代まで受け継がれ、日本の夏を盛りあげる。 盂蘭盆会という仏教行事を原点とするお盆の行事として、旧暦の7月13日ころが主であったが、現代ではまちまちだ。25万の人を呼ぶ郡上八幡では「縁日踊り」と称して7月から9月まで計30日近くもつづき、8月の13日〜16日は徹夜踊りがあるという。 盆踊りの世界 http://www.bonodori.net/ 紬で名高い郡上八幡は、踊り浴衣も洒落ていて、呉服屋さんで借りることもできるとか。足拍子につかう下駄も欠かせず、手拭いで顔をかくせば、なぜだか余計きれいに見える。さいきんは浴衣人気で、公園の盆踊りでもいろんな柄が鮮やかだ。子どもたちも張り切って、髪もきれいに結ってくる。ピンクやブルーのぺらぺらしたのもいいけれど、しっかり染め抜いた反物仕立ての愛らしさには適わない。長い袂と三尺帯をゆらして踊るうしろ姿もまたかわいい。 闇を背にした盆踊りでは、柄のくっきりした踊り浴衣がひときわ映える。そもそも色柄いぜんに着付けと立居振舞で姿のよさが決まるので、年増も娘も関わらず、踊りなれたひとほど際立って美しい。衣紋の抜き方、帯の締めかた、歩きぶりや袂を扱う手先のきれいさが歴然とものを言う。 お祭りのきもの http://www.wafuku.com/ 踊りもしかり、見よう見真似のお嬢さんより、曲が変われど息ひとつ乱さずするりと踊るジャージ姿のおばさんに軍配あがる、実力勝負の盆踊り。それにしても、東京音頭から炭鉱節、私の好きな河内おとこ節に到るまで、難なくこなす中年女性が多いのは、戦後の民謡ブームの産物か。お勝手からつい出てきたような前掛け姿の奥さんたちが、うっすら上気して晴々と輪から出てくる。 とまれ夏の夜、みんなで踊る愉しさは、老いも若きも上手下手もない。来年はひとつ踊りを覚えて、浴衣で参加したいもの。(本間さとみ) |
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