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ベランダに這わせた夕顔が、ようやく白い花を咲かせた。夕暮れに刻々かわる空をながめて一杯やるのは、わけても夏が気持もいいが、グラスの次に欠かせないのが何はともあれ蚊取り線香。湿った土にもじゃもじゃと草が茂った家のまわりは、昼夜を問わず蚊が待ちかまえ、玄関の鍵をあけるのにもたつくだけで襲撃される危険地帯だ。味噌ショウユは切らしても、線香なしでは一夜も明かせぬ夏いちばんの必需品。うっかりしていて残りが危うく底を尽き、商店街が閉まらぬうちにとあわてて走って買い足した。 二組ずつ平たく重なる渦巻きを外すももどかしく火をつける。コンパクトで折れにくい、急かれながらも手に取るたびに感心するこのカタチ、ご存知「金鳥」の初代社長夫人による明治28年の発案といい、伸ばせば全長75センチ、7時間という睡眠にあわせた燃焼時間に知恵と合理性が渦巻いている。その前身は、明治23年につくられた仏壇線香とおなじ棒状で、燃え尽きるまで1時間、蚊帳と併せて夜中は安全だったのか。遡って奈良時代には、よもぎの葉やカヤの木をいぶし、蚊のみならず人にも耐えがたい煙モウモウ、焚くにもさぞかし骨が折れたことだろう。 金鳥 http://www.kincho.com/index.html 渦巻きに至るはるかな歴史に思いめぐらせば、一組ごとにばらして点火を確かめたり、灰の始末に費やす手間など知れたもの。そもそもコンセントを入れるだけの電気蚊取りのにおいには、蚊よりもこっちが参ってしまうし、煙草は嫌でも線香のケムリはどれだけ髪に籠もろうが気にならず、うれしいほどだから妙である。 もっとも化学的にみると、いま出回っている線香の主成分ピレスロイドは文句なしに安全というわけではないらしい。昭和のはじめから戦後あたりまでは、各地で栽培される除虫菊からつくられていた。現在では和歌山でわずかに栽培されるばかりとなったが、ケニヤや中国産を用いた天然の除虫菊線香が、エコショップなどで手にはいる。比べてみれば、なるほど香りは芳しく、着色しない自然な色もやさしいし、ペットにも安心だ。 除虫菊ワールド http://www.jochugiku.net/ 小津映画の夏の部屋には、皿に立てた渦巻きから煙がゆるく立ちのぼるのが、必ずちらりと目に入る。季節を彩る端正なかたちと風情が欠かせぬ小道具だったのか。まんまるの口と鼻の穴から愛嬌のある煙を吐く豚の蚊遣りも人気がもどっているらしい。涼しいガラスや陶器の蚊遣りも、インテリアとして見直されているようだ。線香の種類もいろいろで、長時間やアウトドア用など用途に分かれて選べるが、パッケージならやはり金鳥がピカ一だ。 花楽堂宙吹きガラス http://www.karakudo.com/kayari.html 蚊遣り花器 http://www.karakudo.com/takokayari.html 常滑焼 http://www.e-tohara.com/tokoname.htm 器屋 一信 http://www.utuwayaissin.com/kayariki.htm 藍花陶房 http://www.rakuten.co.jp/aika-tobo/471652/ 金鳥 パッケージ http://www.kincho.com/factory/shiryou/shiryou01.html 夜更けて帰ると路地にただよう蚊取りの匂いになぜだかほっと気がゆるむ。地べたに近い下町暮らしになくてはならぬ親しい煙は、秋がくるまで出番がつづく。 (本間さとみ ) |
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