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今年の暑さは並でない。梅雨明けも待たぬうちから記録破りの真夏日つづき、新潟、福井を次つぎ襲った豪雨のあともすさまじく、怪談よりも自然の脅威がよほど畏れをいだかせる。クーラーのありがたさも例年にまさるものの、都心の人混みを抜け出せば、締め切って冷やすより、なるたけ風で涼みたい。夕暮れに木立をざわざわ揺らす風は、夏ならではの心地よさ。窓をガラガラ開け放ち、西に東に吹き抜ける日は、連ねた軒から競うように鳴る風鈴の音も涼やかだ。お年寄りの多い界隈は、玄関にも網戸を入れて、通るひとの目を除ける簾やのれんの藍もゆかしい。 夜更けまで部屋に熱気がこもる日も、ベランダに出ればひんやりとして、空気を動かす風のちからを改めて感じるが、表にばかりもいられないので扇風機の世話になる。風呂上りなど、汗の吹き出るような折には欠かせぬ頼みだが、欲をいうなら「強」か「弱」かと杓子定規な送風が、キカイの物足らなさである。そこへいくと、純手動なる団扇のかぜは、手首ひとつで調整自在。落語じゃないが、瞼が落ちれば手も止まる。 万葉集にもうたわれた団扇は古く、平安貴族の顔を隠した昔から、祭りなど儀礼の場でも使われてきた。江戸時代にひろく普及し、材料の竹と和紙が手に入る土地で大量につくられた。伊予(愛媛)竹と土佐和紙でつくる丸亀や、女竹(めたけ)を割いて丸く型どる千葉県安芸(あき)が有名だ。 丸亀うちわ 茂木団扇 http://www.shigekidansen.com/ 房州うちわ 太田屋 http://www.awa.or.jp/home/ootaya/index.htm 薄茶色の柿渋を塗って仕上げる渋団扇は、、焼き鳥屋などの炭おこしに欠かせない。お勝手で茹で上がった枝豆なんかをバタバタ扇ぐにもちょうどいい。真竹をつかった熊本は来民(くたみ)でつくる渋団扇が100年持つという丈夫さを誇るいっぽう、奈良うちわは正倉院文様などを突き彫りにしたお座敷用、京うちわは扇面に差しこむ竹や杉の柄も漆塗りなど、絵柄のみならぬ豪華さが身上だ。安芸製の骨を用いる江戸うちわは、役者絵、美人画、風景など浮世絵の木版摺りで人気を博し、さいきんは縮緬や浴衣地の高級品もつくられている。 渋うちわ 栗川商店 http://www.uchiwa.jp/ 奈良うちわ http://www.pref.nara.jp/nara/dento/ken3.htm きれいなのもいいけれど、団扇のよさは手で送る風のやわらかさ。ひと昔まえの邦画には、前掛けをしてきちんと座り、寝かしつける子どもやお客、床に臥す病人に忍耐づよくうちわを使う女の姿がじつにやさしい。小津安二郎「青春の夢いまいづこ」で、浴衣の前をおおきくはだけ、手拭い頭に卓袱台でビールを呷るおっさん(社長)を扇ぎながら、「旦那様は、こうしているときがいちばんお幸せそうでございますねぇ」という年とった女中さんもまた、ずいぶん嬉しげであった。(本間さとみ) |
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