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窓をあけるとあたたかい、花の香りがいっぱいに満ちている。待ちかねた梅がほころび、椿に木蓮、さくら草、雪柳のしろい花、そしていよいよ桜へと、若葉とともに次からつぎと咲き継いで、毎年ながら気がさわぐ。耳をすませばいつもの雀に鶯などあたらしい音も加わって、朝がいっそうにぎやかだ。 いちどに湧き立つ春の息吹は、ながい寒さにぼんやりしていた目や耳を覚まさせる。どこの桜がいちばん先か、角のお宅の木蓮が咲くのはいつか、日ごとの変化を見逃さぬよう、急にあちこち目を見張らせて、朝晩の通りをあるく。にわかに色づく庭木や並木をながめたり、花薫る風に吹かれるだけでうっとりするが、なににも増して春の恵みを感じるのは、花より団子、野山の香りを味わう時だ。 山のそばで暮らすひとには、山菜があるけれど、町なかでは、春といえば筍だろう。八百屋の店先で、笊に盛られているのを見ると、なんだかそわそわしてしまう。値段が落ちつくのを待って、買ったら急いで下茹でにする。糠をいれたたっぷりの水で1時間も茹でるうち、家中にたちこめる、灰汁のにおいも御馳走のうち。やわらかくなったらそのまま冷まし、昆布とカツオの出汁で炊く。おおぶりに切るほど、えぐみが深いようで旨い。さっと煮たうす緑の蕗と、山椒をたっぷりあわせれば、なによりの春の膳。土のなかでむくむくと蓄えられた春そのものの味がする。 和菓子屋にも季節はめぐる。墨の跡もあざやかな「かしわ餅」の張り紙が出ると、立ち寄らずにはいられない。さくら餅も待たれるけれど、季節のみじかいもののほうが、ありがたみが増すようだ。近所のちいさなお店では、桜の季節は柏餅の一本勝負。白いお餅のこし餡と、ピンクの味噌餡、よもぎの粒餡の3種類。葉っぱの色もそれぞれ違う。つぶ餡は人気があるので、うっかりすると売り切れる。青空いっぱいに枝を伸ばした桜の花と若葉をながめ、鼻の奥まで柏の香りを吸い込むと、体じゅうに春のよろこびが湧いてくる。こんどの花見はじぶんでお餅を拵えてみようかな。野菜とちがって柏の葉などは近所では買えないが、通販ならば簡単だ。葉っぱのせいか、値も張らないので気も軽い。 富澤商店 http://shop.tomizawa.co.jp/category/... (有)野村商店 http://web.thn.jp/nomurashoten/ クオカ http://www.cuoca.com/ 山眞産業(株) http://www.yamashin-sangyo.co.jp/main_fr.html おむすびにつかう竹の皮や、味噌焼きにする朴葉なども手に入る。それぞれに産地があって、土地のかおりも運んでくれる。桜の葉なら伊豆松崎。鏝絵の残る古い家、なまこ壁の町並や、川沿いの桜並木がしのばれる。蓬団子を笹でくるんだ新潟の笹団子も、若葉の季節に恋しくなる。母が家でつくったころは、おおきな桶で粉をこね、藁で束ねた笹団子が玄関じゅうにぶらさがり、食べ切るまで笹のにおいでいっぱいだった。 桜葉漬けのできるまで http://web.thn.jp/nomurashoten/seizou/index.html 三糧笹団子 http://e-sanryo.com/sasa.html きょうもまっ先に和菓子屋へ寄り、残りわずかな柏餡をぶじ手に入れた。団子も季節もぼんやりしてると逃してしまう。とりわけ春は目も耳も、鼻の穴まで忙しい。(本間さとみ) |
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