073.甘味に緑茶

 072.平日の美術館

 071.衣替え一考

 070.魅惑のカレイドスコープ

 069.チェコアニメーションの巨匠たち

 068.浴衣で盆踊り

 067.あなたの布団はどれですか

 066.レシピサイトレポート

 065.蚊遣りのけむり

 064.ぶらり熱帯、食虫植物

 063.オンラインデパート巡礼

 062.うちわの風

 061.タオルも手ぬぐいも

 060.真夏の夜の映画

 059.朝顔いまむかし

 058.笹の葉さらさら

 057.ディックブルーナ

 056.和傘と洋傘

 055.パジャマの好み

 054.歯は磨いたか

 053.座布団まめ知識

 052.比較的革を選ぶ理由

 051.歩くための靴

 050.カーテンも衣替え

 049.石ころころり

 048.電子本と未来の生活

 047.葉っぱの香をお取り寄せ

 046.今日は自転車

 045.Vintage Apple

 044.手塩にかける曲げわっぱ

 043.デスクトップのコモノ

 042.小春日和の雑貨

 041.鉄瓶えらび

 040.現代はりばこ事情



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 窓をあけるとあたたかい、花の香りがいっぱいに満ちている。待ちかねた梅がほころび、椿に木蓮、さくら草、雪柳のしろい花、そしていよいよ桜へと、若葉とともに次からつぎと咲き継いで、毎年ながら気がさわぐ。耳をすませばいつもの雀に鶯などあたらしい音も加わって、朝がいっそうにぎやかだ。

 いちどに湧き立つ春の息吹は、ながい寒さにぼんやりしていた目や耳を覚まさせる。どこの桜がいちばん先か、角のお宅の木蓮が咲くのはいつか、日ごとの変化を見逃さぬよう、急にあちこち目を見張らせて、朝晩の通りをあるく。にわかに色づく庭木や並木をながめたり、花薫る風に吹かれるだけでうっとりするが、なににも増して春の恵みを感じるのは、花より団子、野山の香りを味わう時だ。

 山のそばで暮らすひとには、山菜があるけれど、町なかでは、春といえば筍だろう。八百屋の店先で、笊に盛られているのを見ると、なんだかそわそわしてしまう。値段が落ちつくのを待って、買ったら急いで下茹でにする。糠をいれたたっぷりの水で1時間も茹でるうち、家中にたちこめる、灰汁のにおいも御馳走のうち。やわらかくなったらそのまま冷まし、昆布とカツオの出汁で炊く。おおぶりに切るほど、えぐみが深いようで旨い。さっと煮たうす緑の蕗と、山椒をたっぷりあわせれば、なによりの春の膳。土のなかでむくむくと蓄えられた春そのものの味がする。

 和菓子屋にも季節はめぐる。墨の跡もあざやかな「かしわ餅」の張り紙が出ると、立ち寄らずにはいられない。さくら餅も待たれるけれど、季節のみじかいもののほうが、ありがたみが増すようだ。近所のちいさなお店では、桜の季節は柏餅の一本勝負。白いお餅のこし餡と、ピンクの味噌餡、よもぎの粒餡の3種類。葉っぱの色もそれぞれ違う。つぶ餡は人気があるので、うっかりすると売り切れる。青空いっぱいに枝を伸ばした桜の花と若葉をながめ、鼻の奥まで柏の香りを吸い込むと、体じゅうに春のよろこびが湧いてくる。こんどの花見はじぶんでお餅を拵えてみようかな。野菜とちがって柏の葉などは近所では買えないが、通販ならば簡単だ。葉っぱのせいか、値も張らないので気も軽い。

富澤商店      
http://shop.tomizawa.co.jp/category/...
(有)野村商店   
http://web.thn.jp/nomurashoten/
クオカ       
http://www.cuoca.com/
山眞産業(株)   
http://www.yamashin-sangyo.co.jp/main_fr.html


 おむすびにつかう竹の皮や、味噌焼きにする朴葉なども手に入る。それぞれに産地があって、土地のかおりも運んでくれる。桜の葉なら伊豆松崎。鏝絵の残る古い家、なまこ壁の町並や、川沿いの桜並木がしのばれる。蓬団子を笹でくるんだ新潟の笹団子も、若葉の季節に恋しくなる。母が家でつくったころは、おおきな桶で粉をこね、藁で束ねた笹団子が玄関じゅうにぶらさがり、食べ切るまで笹のにおいでいっぱいだった。

桜葉漬けのできるまで
http://web.thn.jp/nomurashoten/seizou/index.html
三糧笹団子     
http://e-sanryo.com/sasa.html

 きょうもまっ先に和菓子屋へ寄り、残りわずかな柏餡をぶじ手に入れた。団子も季節もぼんやりしてると逃してしまう。とりわけ春は目も耳も、鼻の穴まで忙しい。(本間さとみ)